
植物 × 人 = 空気感
物腰が柔らかく明るい彼女がなぜ植物に携わるのか。インタビューを続けていくうちに彼女の中には決然たる信念があり不器用な言葉選びだがそこには強い意思を感じた。
インタビューを終える頃にはその対照的な第一印象とのギャップがスッと腑に落ちる感覚がした。

│ 自己紹介をお願いします。
植物のコーディネートという仕事をしていて会社に所属しながら「UI(ウイ)」という活動をしています。UIというのは一鉢からグリーンの空間演出だったり植物の背景だったり、対象になる人の事柄を理解した上でそれを汲み取って「自分だったらこういう提案ができる」というのが根底にあります。最近、お花屋さんの一角に植物を置かせてもらうことになって、そこにいけば植物は置いてある。それとPOPUPだったりとかであまり店舗を持つことにこだわりを持たずに植物を見せていけたらなと思ってます。
│ 植物を仕事にしようと思ったキッカケはあるの?
前がアパレルだったんですけど、八年ぐらい「これって自分じゃなくてもできることなんじゃないか」とか、もっと手に職だったり自分らしさとはなんなんだろうな?と悶々としてる時期にコロナ渦になって「明日から一ヶ月休業です」みたいな時があって、「自分ってなにがしたいんだろうなぁ」って時に箇条書きでカッコいいと思う人や事柄ってなんだろう?って思った時にお父さんが庭を一から作ってたり、祖父が庭の仕事してたり、旦那さんのおばあちゃんが生け花の店をやっていたり。めちゃめちゃ物腰の柔らかいおばあちゃんなんですけどマンホールの錆を活かして花とか一切使ってない草月って流派を展示している作品を見せてもらったりしてめちゃめちゃ自由ですごく良いな、というのがキッカケでハッとなって、「自分もこういう大人になりたいな」というのが重なったタイミングで植物の仕事をやってみようと思いました。
│ 家族だったり近しい人が植物に係わっていることが多かったんだね。
そうですね、なんか小さいときは意識してなかったんですけど多かったな。
│ ペットと比べると植物ってハードルが低いけど、実は育てるのが難しいよね?
すごい身近な物だけど、なんだろうなぁ…。自分の精神状態がすごい出たりとか奥深いな、と思いますね。
│ 植物によっては強い、弱いってあるけれど、あれはどういう違い?
生息してた、例えばジャングルの奥地で育ってきた子で3メートルだったり密集してるところの下草(高さのない植物)って日当たりが常に弱いジメジメしてたりして、普通に捉えると良い環境ではないなって思うけど適応していって、セントラル(ハンバーガー屋)にもあるような芋系の陰でも強く育ったりとか、ルーツを一通り分かると「あ、この子はここだな」とか、自然と家の中での立ち位置が決まってくるのかなぁ。

│ 花というよりかは葉だけの植物が多いイメージだけど、どうだろう?
お花もいま携わることがあって、お花はお花ですごく時間が限られてて可愛い、儚さだったりとかあるんですけど、やっぱり年月とともに人みたいにあの時こんなにこぢんまりしてたのにめちゃめちゃ力強くなってるだったりとか、結構みてると古い幹だったりとか生長してる過程ていうのが花とすごい違って楽しめるていうのと、あとは前に働いてたところが樹形だったりとか、沖縄とか八丈島っていう暖かいエリアから実際に見て買い付けしてっていうことがあって、やっぱり株立ちだったり幹の感じだったり生命力とかパワーもらうのって花にはないな、ていうのがすごい好きです。
│ 花は咲いて散って一瞬を楽しむ物だけど、幹とかの育ち方、形、質感は環境によって変わってくるから過程を楽しむ物なんだね。基本的には、家ではどういった作業をしているの?
依頼を受けたりだったりとかPOPUPだったりとか、そういうなにかモチベーションがあったときに自分が市場とかでセレクトしたものだったり、鉢カバーはどれが合うとか植え替えだったりとか、あとはそういう装飾するときに生のものではないんですけどフェイクを作る作業をここではやっています。
│ 常に手入れしなきゃいけないわけだけど、家にはいつも植物は置いてあるの?それとも、タイミングで仕入れたりする?
前は在中させてることもあったんですけど、いまは依頼だったりとかでこういうのが欲しい場合だったら、その人の好きなものを知った上で選ぶし、POPUPだったりとかここに置くっていうのだったら「この環境(温泉)のイベントだったら湿度高めなシダッぽい感じだったりとか、ちょっと渋めな感じがいいな」だったりとかその対象となるものに対して「こういう植物、鉢の提案だよね!」みたいなそれが好きだしそういう感じにしたいから、基本は常にいっぱいあるってことではなかったりかな。いずれはもうちょっとこうどこかしら借りて、大きい木とか育てたり、養生する場所が作れたらいいなと思っている。

│ お客さんに植物をプランニングするときに同じ種類でも個性みたいな違いがあるけれど、元気があるない以外に何か感じることはある?
この子とかも元々強いっていうのは知ってたんだけど、実は最初弱っていたのを持ち帰ってみたいなことがあって、植物って日当たりとお水と風っていうところで左右されるからそれを意識して窓が広いところだったりとか、あとは葉水だったりというところで結構分かりやすく変わるかなていうのはありますね。良くも悪くもここが誰かの手に行く途中の場所というか、行った後にぐっと環境も変わって「ちょっと弱っちゃったんですけど」っていう相談とかをされたりもあるんだけど、手に届くまでの中間地点として「この子ってこれが一番ベストだよね」っていうのが分かる環境ではありたいな。ちょっと話ずれちゃったかもしれないですけど。笑
│ 昔、植物に音楽聴かせるといいって話があったけど実際どうなんだろう。笑
あぁ、でもなんかあんまりケンカもしないですけど家の空気感がちょっと弱い、悪いみたいな、お互い忙しくてなんか不穏な空気じゃないけど、そういう時って著しく弱ってたりとか水やりのあれかもしれないですけど、そういうのはあったりするのかな。絶対に良い空間のほうが良いと思うので、それはここだけのことじゃなくて置かせていただいているお店だったり、セントラルとかもそうなんですけど、やっぱり植物が元気だと「良い空間だなぁ」ってパッと分かるから。
│ ある意味、人の空気感やお店の空気感が良ければ植物にも良いし、植物の空気感が良ければ人に良い影響を与えたり、お店にも良い空気感が出てくる可能性はあるのかな。
それは絶対にあると思います。
│ いまは人と植物を繋ぐような活動を仕事を通してやっているけど、今後どうしていきたい?
UIていうのが、いざ自分が植物で活動したいってなった時に、月に一回帰省で高知に帰る事があって元々家業でやっていたことが父が不在になってしまって。じゃあどうしていく?ってなった時に「このまま衰退していくのは絶対やだな」って思ってました。UIっていうのは植物と仕事「PLANTS & WORKS」っていうサブタイトルみたいなのをつけてます。それで植物は装飾だったりとかグリーンの提案だったりとか、内装で植物を自分だったらどういう風に置くか、っていうところの活動を今後も続けていきたいんだけど、仕事っていうところが家業というか地元を発展させたいていうのがあります。活動したいけど名前がないとダメだなって思った時に、父が書いていた手帳に私と兄で活動して欲しいって構想があったみたいで、勝手にまんま名前に「ユウ&アズ」みたいなよくわかんない名前付けてて、これさすがにちょっとダサいなと思って、でも「家族の名前っていいな、なんか意味を持たせたい」と思ったときに頭文字はどうなんだろう?と思って順番変えたりとか色々してたら「HATSU(初)」って言葉になって、意味を調べたときに初々しいだったりとか初心だったりとかその言葉が出て来て、年上の人だったりとか「私、歳重ねてきたから偉いでしょ」っていうヤツめちゃめちゃ嫌いで、逆にいつでも「今の人ってこういう感覚なんだね、教えて!」みたいな人だったりとか、いつになっても吸収する人ってめちゃめちゃカッコいいなって思って、それの「初々しい」人でずっといたい、初心を忘れないだったりとか、一つのことが長く続くって意味もあって、良い言葉だなっていうのでUIて名前を付けました。目標でいうと、常に新しいことだったりとか変化していくことにだったりとかに、人にも事柄にも柔軟に腰は据えてるんですけど足取りは軽い人でずっといたいみたいな。だから、店舗を持つのをゴールとしていないのも、今関わっている色んな人達のお店などに「ここに行けば逢える」と思ってもらえる事で私も相手も、知り合いの方々としても皆が相乗効果だと思っているので、そういう意味合いがあります。今は別の仕事でオフィスだったりとか、規模感が大きいところの植物も提案してるんですけど、私が選んでその人と話して「この人はコレ好きだろうな」とか「こういう音楽聴くんだろうな、こういう映画観るんだろうな」だったりとかそれを踏まえた上で「この人はコレが好きだろうな」って洋服を選ぶみたいに提案して、空間だったりとか、いまは内装やりたいなと思っていて、その人だけの植物というか空間を作りたい。装飾もやりたい、いつかステージの装飾もやりたいっていうのが近い目標であります。
│ UIの名前の通り、新しい物に出会ってその都度自分の持っているものと掛け合わせて良い物を作っていきたい。そんな感じなのかな。
「これすごいUIらしいよね」とか、同じ植物でも見え方が全然違う見せ方が出来たら楽しいんじゃないかなって思います。

- 及川 あずさ Oikawa Azusa -
新潟で生まれ、8歳の時に父の実家である高知県室戸市に移り住むこととなった。古き良き町並みが歴史的文化財に指定されている地に受け継がれてきた蔵や古民家で古い文化を再生させる事を目的に父の代でカフェや宿として改修。県内外からもお客さんが来るようになり経営も軌道に乗り始めた頃、父の訃報が届いた。体力や気力の低下とともに手が回らず活力を失いかけていた家業に対し何もできない自分に悔しさと憤りを感じていた。コロナ禍を機に「もっと働き方を自由に出来るようになりたい、もっと力が欲しい」とUIの活動を始め、いまでは月に一度は実家に帰省し仕事と家業の両立を実現させ前よりも良い状態へと好転した。自分の代でさらに家業を発展させていく為にはどうすればよいかを自らに問いかけ、「地方や田舎といった立地条件に左右されないブランド力を確立出来れば自分を認められる」と語った。
MINDFIELD : 002 AZUSA OIKAWA
筆者/水田准
写真/前川翔平
取材/2024.03.30